魔法を探して

※ご本人の承諾を得ています

 Aさん 50歳 女性
《ご相談内容》
 何年か前から理由のわからない不安がある。眠れない。急に動悸がする。
 更年期障害と診断され薬を服用しているが改善しない。
 睡眠導入剤も出してもらっているがあまり使いたくない。

 催眠療法希望

いま悩んでいること、その原因となっているものが見えるよう誘導

最初に浮かんだものを伺いました。するとAさんは、

「え、」 「あれ?」 「何も浮かびません」 「え~?」 を何度か繰り返しました。

「何が見えましたか?関係ないと思うものでも、浮かんだものを教えてください」と言うと、

「なんか、赤い靴が出てきて…どうしても ”魔法使いサリー” が出てくるんですが、これ関係ないですよね?」

(魔法使いサリーは昔のアニメです)

このアニメは観ていたけど思い入れがある程好きだった訳でもなく、今まで思い出すこともなかったと言います。

サリーを見ていて何が浮かんでくるかを伺うと、Aさんは笑いながら

「…やだ、今度は ‟ひみつのアッコちゃん(これも魔法キャラのアニメ) のコンパクトが出てきました」

「何故そのアニメが出てきたのでしょうか?そのアニメを観ている幼い頃の自分を見つめてみてください」と伺うと

「自分が魔法を使えたなら何をしようか考えています」

年齢を少しずつ上げて、今の悩みに関係のある出来事を探していきます

最初のシーンは運動会のリレーで前にいた子を追い抜いたシーンでした。みんなの歓声が聞こえてきます。

小学生のAさんは努力しなくても成績が良く、勉強だけでなく体育も図工も全ての成績が良かったそうです。同級生のことは「どうして勉強しなきゃ解らないんだろう?」と不思議に思っていたそうです。

友達からはいつも「すごい」と言われていました。学級委員も立候補しなくても友達や先生から推薦されていたそうです。

中学生の時に移動

学校の廊下で友達と話しているシーンが出てきました。
中学生のAさんはどのような気持ちなのかを覗いてもらうと、つまらなさそうだと言います。

友人も沢山いたし彼氏もいた。特に嫌なことはありませんでしたが、注目されることも、凄いと言われることも無くなってきたので楽しくもなかったそうです。

それでも「私はやれば直ぐに追いつける」「やれば出来る」と本気で思っていたそうです。

でも、努力することはなく高校も大学も就職先も、特に入りたい理由もなく「入れたところ」に入りました。

学校や職場では、言葉や態度に出すことはなくても「どうして私がこんな人達と同じところに居なきゃいけないのだろう」といつも思っています。

実家が裕福なのもあり、同級生や同僚よりもハイブランドの物を持てていたので「すごい」と言われることはあったそうです。

20代〜現在までで、今の悩みの原因となっている出来事を見ていきます

(Aさんは20代で優しいご主人と出会い、結婚し出産)

独身の友達が出てきました。
その友達はある資格を取るために10代の子達がいる専門学校へ通うと聞いた時のシーンが出てきました。
Aさんは『20代後半なのに10代の子達がいるところに通うなんて信じられない』と驚き、
『若い子からおばさんだと思われるのに、なんでそんな恥ずかしいことができるんだろう』と思っています。

次に出てきたシーンは、子供が大きくなったので何かやりたくなり、パートにでた時のシーンや、お稽古事に通っている時のシーンが出てきました。
Aさんは何度かパート勤務で働きましたがどれも長く続かず、お稽古事も続くものはなかったそうです。

その頃の気持ちを覗いてみると、
どのパート先でも「こんな人達と一緒にいるのは嫌だ」という想いが強く、それでも「仕事を続けている人達は凄い」と尊敬する気持ちもあったことが分かりました。

お稽古事は、自分に向かないと思ってやめていましたが、”最初から上手く出来ないことが嫌”でやめていたことが分かりました。

Aさんの家庭は、Aさんが働かなくても生活に困ることもありません。
そんな自分は幸せだとも思うのに「楽しい」「充実している」と思えることがない。何の不満もないのに、もう長い間ずっとつまらないと思っていました。

ブランド物の食器を買ったシーンでは、『欲しい物があっても、買おうかどうしようか迷う時のドキドキが楽しいけど、買ってから人に見せ終わったら急に虚しくなる、その繰り返しだ』と思っていました。

記憶を中学生の頃に戻します

「中学生の自分に何か伝えたいことはありますか?」

「どんなに頭が良くても、努力し続ける人には敵わないんだよ。まだ間に合うなんて思わないで、お願いだから少しずつでも努力して。今の私はすごく後悔してるから」

そう言った後「これは私が子供にいつも言っている事です」と泣き出してしまいました。

同じように、結婚したばかりの頃の20代の自分に伝えた言葉は、

「今からでも間に合うから、20代なんて遅くないから、自分に何か能力があると思うのなら、何かを探してやってみて。それが直ぐに手に入らないからって投げないで。いっぺんに手に入れる、いっぺんに凄い自分になれる、そんな魔法みたいなものはないんだよ」


 Aさんは 『自分はいつでもやればできる』と思いながら『何もやらない自分、やっても続かない自分』を嫌っていました。

段々と『もう間に合わない』という焦りも出てきても地道な努力をした経験がないAさんは『努力はしなくても、何か自分に向いたものが見つかれば直ぐに能力が発揮できるのに。どうすれば また凄い自分になれるんだろう、何をしたら直ぐに凄くなれるんだろう』と考えていたのです。

「凄い自分」というのは具体的にどんなことをしている自分なのかを伺うと「人から注目され、囲まれているような。大成功している経営者とか、生き生きと忙しく自分の力を発揮している人」だそうです。

特にやりたい事はなくても、”みんなに注目されて輝いている自分”をぼんやりと想像することが、今まで何度もあったことに、この日、気がつきました。

みんなに注目される凄い人に『直ぐになれることなんてない』と思いながらも、直ぐに凄い人になれる『魔法のようなもの』を無意識にずっと探していたのです。

そして50歳になる数年前から『もうすぐ50歳になる。このまま、何もしないまま人生が終わりに向かっていくんだ 』と無意識の中で思い始め、それが怖くてたまらなくなっていたことが分かりました。


Aさんは自分の事を「何も成し遂げていない」「もう凄い自分ではない」と思っていましたが、派手でもないし人から注目されることでもないけれど、やり遂げてきた事や、努力してきたこと、小さな楽しいことも沢山あった事を記憶から引き出し、自分を認めることも出来ました。

後日、不眠はすっかり治り、今は何をしようか探していることも「努力している自分」のような気がして楽しい。庭の花に水をあげている自分のことも偉いと思えるようになり、心が軽くなったとのご報告をいただきました。よかったです。

Aさんのように幼い頃に優秀でなくても、心のどこかで「自分はやればできる(はず)」と思っていながら何もしていない方もいるのではないでしょうか?

「やればできる」を思ったまま何も始めないでいると、Aさんのように自分のことが嫌いになってしまったり、「やればできるはず」は、何かを始めたところで少しつまづくと「こんなはずではなかった」と投げてしまいやすく、そうしているうちに焦りばかりが膨らむのに、現実を見たくなくなってしまうことがあります。

「やればできる(はず)」と思いながら出来ない、やらない事がある方は早いうちに何か始めると、出来ること、向いていることでも「直ぐに結果が出るわけではない」ということも早く知ることができるかも知れません。

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